夢見るきみへ、愛を込めて。

私が夢で見るのは、変えられる未来じゃない。いくつかの工程は飛ばせたり、右に進むべき所を左に向かうことができても、行き着く先は決まっている。そういう風にできている。

お母さんのときだって、おばあちゃんのときだって、いっくんのときだって、結局私は何もできなかった。

絶対に避けられない、変えようのない未来を、人より早く知ってしまうだけの、この力。


「しょうもない……」


少しも特別じゃない。なんの意味もない。

どうせなら好き勝手に変えられる未来を見られたらよかったのに。今はもう、ひたすらに夢らしい夢を見たいと願う。決して現実では起こり得ない、どうか覚めないでと思える、幸せな夢を。


――カラン、と夜更けにしては相応しくない、けれど涼やかな音色が響き顔を上げる。
余計なことばかり考えてしまう思考を振り切るようにして鏡の中の自分を彩ったあと、口元に笑みを浮かべ店へと戻った。





いっくんは私にとって唯一で、確かに特殊だった。同じ時間は二度と訪れず、あと一度だって出逢えないほどに。

そして彼もまた、私にとって唯一で特殊な存在になりつつあるのかもしれない。


朝から続いていた頭痛がなくなっていたこと。保存に困っていた大量の食材をママが一緒に調理してくれたこと。それからまた雪が降ったことも相まってか、私は2日ぶりにストーカーが現れても落ち着いていた。


遠回りでもマンションの裏手から回り込み、姿を確認する毎日。
昨日は肩透かしを食らったせいもあり、文句のひとつくらい言いたくなる。

だけど友達でも恋人でもない私たちの関係に見合う、第一声がいつも思い浮かばない。かと言って無視して通り過ぎることは、もうできそうになかった。
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