夢見るきみへ、愛を込めて。
数週間前まで私が使っていた帰り道を気にしている様子の彼を眺めながら、踏み出す。がさりと持っている袋が揺れ、眺めていた後頭部が半拍遅れて振り返った。瞬間、花が開くような笑顔に足が止まる。
「おかえり」
ただいま、なんて返してもらえると思っているんだろうか。
相変わらずゴミ捨て場の前にしゃがみ込んで、微笑みながら返事を待っているけれど。
「寒くないの?」
聞くと彼は目を丸くさせ、かと思えば、にこにこと嬉しそうにし始める。
「寒さなんてどっか行っちゃったよ」
きみが話しかけてくれたから、と言わんばかりの笑顔に頭痛がぶり返しそうだ。単純な疑問をぶつけただけなのに、こうも喜ばれると安易なことは言えないじゃない。
「そうですか……」
「うん。寒くないよ。大丈夫」
「だからって毎晩ゴミ捨て場の前にいるのはどうかと思いますけどね」
遠回しに非難したつもりが「えっ」となぜか驚かれた。
「昨日は逢えなかったのに、なんで俺が来たって知ってるの?」
「……」
来てたの? そんなの知らなかったし、わざわざベランダから覗いてもいない。
「知らないよ……ただ、いつもゴミ捨て場の前にいるから、そう言っただけで」
来ていたなら、いつもの場所で待っていたんだろうって思うのが普通でしょう。それなのに彼は、とろけそうなほど瞳を細めて。
「すごい。俺、きみの意識に存在してるんだ」
とても、とても嬉しそうな笑顔を見せるから、言葉に詰まった。
存在、とか。出逢った頃から強烈な印象を残してきたくせに。自分で言ったこと忘れてるのか、このストーカーは。
立ち止まって会話してしまった手前、帰れずにいると彼は頬を緩めたまま私を覗き込んでくる。