夢見るきみへ、愛を込めて。
「今日も遅かったね。毎日こんな時間に帰ってくるの?」
正確な時間は分からないものの、バイトが終わったあとにママと調理を始めたことを考えれば、今日も2時を回っているはず。
「たまたまです。いつもは、1時前後なので」
ふふ、となぜか笑われる。
追求しようとは思わなかった代わりに、きっとこの人が見てる世界はとても平和なんだろうなと感じた。
「それにしても危ないなあ。変な人に襲われたらどうするの」
「……、そう、ですね」
僅かに突っ込みたかった気持ちを抑えながら、彼との隔たりを埋めることなく目を逸らした。
「待って。歯切れ悪くなった理由は分かるけども! あえて言う。俺は、襲いません!」
「……そうですね。そうしてください」
「信じてないな!?」
「いやもう、なんでもいいです……」
そんなにグイグイこられると疲れる。手を前に出して静止を促せば、彼は口をへの字に曲げていた。
感情を押し殺すってことと無縁そうな人だ、なんて。今日はじめて話した関城先輩のことまで思い出してしまった。
元バイト先の新人なだけで、翠が間に入らなければ関わることもないだろうけど。無遠慮な人は記憶に残るから困りものだ。
……夢に、見るかもしれない。
「何か悩み事?」
はっとした私を窺うようにして、ひょこりと彼が視界に現れる。真剣なわけでも、面倒そうなわけでもなく。ただ、気になったから聞いているかのように素朴な表情をしていた。
「べつに、何も」
咄嗟に顔に出ていたかもしれないものを背ける。
本当に、この人は。察しがいいというか。