夢見るきみへ、愛を込めて。
絶対、とまで言い切った彼は、私が無反応でいるせいかみるみるうちにうなだれていき、両手で顔を覆った。
最初からストーカーっぽくないと思っていたし、今さら気にはならないのだけど。
「俺は清く正しいストーカーなんです!」
そこまでこだわる理由ってあるんだろうか。何よ、清く正しいストーカーって。聞いたことない。
「変な人」
ふっと頬が緩んで、思わず俯いた。
おかしければ笑うこともある。でも笑顔を見せるのは、心を許しているみたいで。
私って、どういう流れで翠と仲良くなったんだっけ。いやべつにこの人と仲良くなりたいわけじゃないんだけど。
「――……」
視線を感じて前を見れば、馴染みのない、だけど何度も見た笑顔があって。本当は、変なんかじゃなくて、不思議なんだって思った。
この人はどうしてふとした瞬間、嬉しさと哀しさ半分ずつみたいな笑みを浮かべるんだろう。印象に残るのに、気付いたら夜の闇に溶けていってしまいそう。
「名前、」
「……ん?」
名前。なんていうんだろう。聞いたら……こんな感覚もなくなるかもしれないって、思い至ってから首を振った。
「やっぱりいい。帰る。レポートもあるし、終わらせないと」
唐突だったけれど彼は「働き者だねえ」とポケットに手を突っ込んで、私の隣に並んだ。
まさか見送りだろうか。マンションの出入り口まで数十歩もないのに。どんどんストーカーらしさから遠ざかっていく彼に指摘するのもおかしいかと、黙って階段まで歩く。
とん、と私が一段降りても並ぶことはなかった彼が「ねえ」と声を弾ませた。