夢見るきみへ、愛を込めて。
スノードーム
今年は例年に比べ降雪量が多いらしい。

凍った根雪をちらほら見かけながらの帰り道、もうすぐ自宅マンションというところで空を見上げた。灰色の雲がまばらに散っているものの、主役とばかりに月が煌々と輝いている。

冬とはいえ毎日降るものじゃないのだから仕方ないけれど、どう見ても雪は降りそうにない。

小さくため息をつき、曲がり角にさしかかったところで前を向いた。鋪道は深夜の静寂に包まれ、マンションの住人が利用するゴミ捨て場には緑のネットがかかっているだけで人影はなかった。

今日もいない。連日来たかと思えば1日空いたり。あの人のまたね、って気まぐれだよな。

さして不満は持たないまま、遠くに見える明るい星を眺めた。オリオンとシリウスと、冬の大三角形を構成するもうひとつの名前が思い出せない。

なんだか薬にありそうだと思った覚えがあるな、なんて考えながらマンションへ入ろうとした時だった。


「ああああ、待って! 待って! 帰らないで!」


私を必死に引き止めるストーカーが走って現れた。よろよろと速度を落とした彼は膝に手を付き、呼吸を整えている。

何をそんなに急いで……。というかやっぱり、おかしいでしょう。ストーカーを名乗っておいてそんな風に走ってくるのも、変な人だと思いながら聞く耳を持つ私も。どうかしているんじゃないかって、考えることも億劫になる。


「はあ……よかった、間に合った……」

「間に合ってはないと思いますけど」

「手厳しいなあ、きみは」


ようやく顔を上げた彼はストーカーらしからぬ笑みを浮かべ、私と向き合った。そこまで身長差がないせいで近くに感じる。

わずかに息切れしたままの彼を見つめながら、首を傾けた。
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