歌舞伎脚本 老いたる源氏

玉鬘5

源氏 不思議な縁じゃのう。後でわかったことじゃが六条の
 御息所芥子の煙に祈祷をしておる時、ふとうたたうつろいて
 葵上や夕顔に取り付いたとのことじゃった。

玉鬘 どうしてそれを?
源氏 嵯峨野の野々宮で伊勢へ下るという御息所や娘の斎宮と
 わしとの別れの時に全てを話されたのじゃ。

玉鬘 物の怪に母は死んだのですね。よくわかりました。父上は
 母をたいそう愛しておられた、それで十分です。最後にもう一つ
 だけ(トこなし)なぜ私の父が内大臣だと分かったのですか?

源氏 それは十七の頃、内大臣が頭の中将だったころに梅雨の長い
 雨の夜の泊りの時に馬の守や藤式部丞も加わってどんな女が一番
 素晴らしいかという話になった。その時に頭の中将、お前の父が
 自分の悲恋を話した。子供までできながら正妻の嫉妬にあって
 行方不明になった中品の女御の話じゃった。やさしく素直で
 しっとりと寄り添ってくる優美な女御。

玉鬘 あ、わかりました。父君も直感ですぐに分かったのですね。
源氏 その通りじゃ。お前は死んだ兄君柏木によう似ておる。
 間違いなかったわ。

玉鬘 よくわかりました。もうお疲れでしょう。父上、今日は
 これで許してあげます。

(玉鬘は帰り支度を始めます。老いたる源氏も立ち上がり、玉鬘が
寄り添い腕を支えます。ゆっくりと木履を履いて源氏は惟光にも支
えられて庵の外に立ちます)

源氏 あっという間の人生じゃったが皆には本当に感謝している。又
 迷惑をかけてほんとにすまなんだ。くれぐれもよろしくお伝えください。

玉鬘 わかりました。くれぐれもよろしくとお伝えします。
(最愛の養女にきつく抱き支えられて老いたる源氏は天に向かって微笑みます)

源氏 わしはほんとに幸せじゃった。

                           第二幕 幕 つなぎ
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