歌舞伎脚本 老いたる源氏

宇治3

源氏 結局女を死なせてしもうた。悪いやっちゃ薫は。それに引き換え
 孫のほうはお調子者の尻軽で。それでも中の君を京へ引き取りよった。

〽 忘れられぬは おおいきみ
  生き写しの浮舟に
  よくぞ生きておられたと
  心は急きて 宇治の山荘
  今度は奪い取られまい
  早々契り 隠れ住む

源氏 薫、今度は失敗せぬようにと、早々と浮舟を宇治に囲いよった。
柏木 どういうわけか匂う宮様はかぎつけて。
源氏 まさか?またか?
柏木 そう。寝取られましてござりまする。

源氏 ああ、無常。どうする柏木?
柏木 ええ、罪作りなあなたの血筋であられまする。
源氏 ようやるなあ匂う宮は。昔のわしでもそこまではようせぬ。
柏木 東宮におなりかというお立場であられるのに。

〽 あはれ浮舟 あはれ浮舟
  あはれ浮舟 あはれ浮舟

〽 橘の 小島の色は 変わらじを
  この浮舟ぞ ゆくへ知られぬ

〽 あはれ浮舟 あはれ浮舟
  あはれ浮舟 あはれ浮舟

(唄 遠のき消えていく)

柏木 とうとう浮舟様は宇治川に身をお投げになりました。
源氏 あほじゃこいつら!大ばか者たちじゃー!

(急に暗転。大声がとどろきます)
声 所が浮舟は生きていたー!

                      第六幕 幕 つなぎ
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