屋上で待ってる
突然、知らない人に声を掛けられれば戸惑う筈なのに、何故かその時は、不思議と冷静に返していた。
「…私のことですか?」
あおい傘は振り向かないけど、返事をすると、いくらか揺れた。
「君以外に誰がいるの?
…中原夕ちゃん?」
え……
私の名前、なんで……
顔は見えないけど、背丈や声で、知り合いではないことは明白だ。
思わずフリーズしていると、青い傘は笑いを堪えるように震えて言った。
「とりあえず、こっちに来たら?
そこにいてもずぶ濡れでしょ?傘も持ってないみたいだし。」
少し戸惑って、でも彼の傘に入りに足を進めたのは。
この時は、私に重ねてしまったその背中がほっとけなかったことと、これ以上雨に濡れるのもなあ、という気持ちがあったからだと思い込んでいた。