秋の扇

病院内にある休憩所に移動すると、先生が話を切り出した。

「...結果ですが、イトちゃんのお腹の中の赤ちゃんは、今5週目だそうです。」

「......ご迷惑をおかけしてすいません。」

「いえ。私、少し外していますね。」

先生が離れて行った。

「イト。お前はどうするつもりなんだよ。」

「どうって..」

「責任もてよ。もうガキじゃないんだぞ?...じゃあ、イトはどうしたいんだ。こうなった以上、選択するしかないんだから。まずイトの希望は?」

私の希望...

自分のとこに来てくれた小さな命。

「..殺したくないよっ」

だけど。

アキは私の支えにはなってくれない。

これからの検診費は?

出産費は?

一人分の生活費、教育費は?

男手がなくてしかも高校生が育てるのは相当な覚悟がいる。

普通の大人でも簡単なことじゃないのに。

世間の目に耐えられる?

耐えられなかったら?挫折してしまうかもしれない。

そもそも私一人でこの子を必ず幸せにできる?

壁は無限にあった。
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