タカラモノ~桜色の片道切符~
夢を見た。


心地よい風が通る彼の家。


居間にはおばさんと、彼の両親、剛くん、



そして……。誰もが笑っている。


彼にとって1番幸せであったであろう時間



浮上した意識にしたがって目をあけると、広いベッドに一人。



不安に駆られていると、リビングとの扉が開き、彼の姿。


「どうかした?」


ベッドに腰を下ろした彼のシャツを左手で軽く握った。


「美桜?」



丁度良い強さで包まれ、彼の胸に体重を預ける。



「もしかして、また見た?」


腕の中で小さく首を振り、顔を上げると、優しい口づけ。



運命はある。


桜トンネルの向こうのワンフレーズ。



過去のことも、再び彼と出逢ったことも、全てが運命だったのか?


奇跡と呼べる偶然だったのか?



どちらでもかまわない気がした。



少しの間でも彼と心通わせることができたことは幸せだと思う。



「美桜」



声変わりした声、記憶にあるボーイソプラノとは全然違う。



この声を忘れない



全てを包み込んでくれるような大きな手も、心地よいと思える腕の強さと体温も絶対に忘れない。



温もりに包まれてもう1度微睡に身を任せた。




< 100 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop