タカラモノ~桜色の片道切符~
「私も早退するから、うちのマンション行きましょう。ここにいてくれていいからね」


仕事に切りをつける為佐々木は部署へと戻っていった


「お待たせ。帰りましょう」


小一時間ほどで戻ってきた佐々木は美桜を促し、ビルを出るとタクシーを止めた


「拓海、今日いるから着いたら一応診てもらおう?まだ体調完全ではないでしょ」


少し戸惑ったけど頷いた






















「おかえり。優美(ゆうび)美桜ちゃんもどうぞ上がって」


玄関で拓海さんが優しく迎えてくれた


「どうぞ」


湯気のたったカップからは仄かなりんごの香りがした。


「落ち着くと思うから飲んで。TFPの特注品」



飲み終わると拓海さんは、隣に腰を下ろして、視線を合わせると優しく言った


「口止めはしておくから大地に連絡しても良い?その傷手当てしたのアイツだから」


小さく頷いた。それが1番良いのはわかっているから。




拓海さんに言われ、客室のベッドに横になっていると夜、仕事帰りの三條さんが入ってきた



「出て行くとは思っていたけど、まさかこことはね」


『すみません』



「見つからないところに行かれるよりはいいよ。抜糸は明日明後日にはできるかな。……それよりも問題はここ」



大地は美桜の左胸を指差した


「ちゃんとカウンセリングを受けて、食事も摂る。約束して。そしたらここにいることは誰にも言わない」


『……はい』


「手、回しとくから安心してここで休むこと。……どうしてって表情(かお)してるね?俺は女の子の味方なの」


微かに口角を上げた三條さんの表情(かお)はやっぱりどこか拓海さんと似ていると思った。


それから三條さんに紹介されたカウンセリングを受けている間、誰も訪ねてくることもなかった。



携帯も変えたから鳴る事はない。





これで良かったのだと自分に何度も言い聞かせた。


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