タカラモノ~桜色の片道切符~
「笑わないでくれる?」




「何?」


立ち上がった彼が振り返って、視線が合った



「ぬいぐるみの名前、航大っているの」


「……あのくま、女の子だったんだけど?」


「……え」


じゃあ、女の子に男の子の名前を付けていたってこと?


「美桜らしいといえば美桜らしいけど。……ありがとう」


ピンと張っていた糸が少しだけ緩んだ気がする


「うんうん。私も何か渡せたらよかったんだけど」


ずっと、心に刺さっていた。彼に私を覚えていて貰うものを渡したかった


「ちゃんと覚えていたから」


「うん」


小説じゃないけれど、またこうして巡り逢えた。

運命って簡単な言葉じゃ言い表せない。

沢山の奇跡が重なって、偶然が必然を生んだ


「源氏名、桜が綺麗なところって言ったの、半分ホントで半分嘘」


「え?」


「美桜の桜から取ったんだ。オーナーにスカウトというか拾われて源氏名決めるとき浮かんだのが美桜だった。もしまた逢えたら気づいてくれるんじゃないかって」


気づいてはくれなかったけどと意地悪そうに笑う彼に、涙腺が緩みそうになるのを必死に堪えた


「私も。同じ。桜井航の航は航大くんから取ったの。どこかで気づいてくれるかも知れない。そんな淡い期待を抱いて」


「そこまでは気づかなかった。ま、俺も確信が持てたのは航大の名前で呼ばれた時だったけど」




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