タカラモノ~桜色の片道切符~
薄っすらと瞳をあけると、初めて見る天井。


額に置かれた濡れタオル。道理で冷たくて気持ちよかったはずだ。



でもここは?確か……



「気がつきました?気分どうですか?」



理桜くんの声で漸く思い出し、慌てて身体を起こそうとした。



「まだ横になっていたほうが。顔色もよくないですし」



起こそうとした身体は理桜くんの腕に阻まれ、再び横に寝かされた。



「寝不足による貧血と軽い日射病だそうです」



左手の時計を見ると時刻は15時半を過ぎた辺り。1時間くらい眠っていたということか



「ごめんなさい。せっかくの休日なのに。もう大丈夫だから」



「いえ。送りますよ。帰りにまた倒れられた方が後味悪いですし」



部屋の扉が軽くノックされると、マスターが中に入ってきた。



「気付かれました?ご気分の方はいかがですか?」


「あ、すみません。ご迷惑おかけして。大分良くなりました」


身体を起こしマスターに頭を下げる。



「それは良かった。気を遣わなくていいからゆっくり休んでください」



マスターが出て行くと、携帯が鳴った。この音は…



「佐々木さん」



いつもより長めのコール音の後電話にでる


「美桜ちゃん?忙しいところごめんなさい。プロットなんだけど、もう少し考えてくれないかしら?細かい修正はメールで送っておくし、どうも美桜ちゃんらしくないわよ?何かあった?」



「いえ。大丈夫です。わかりました。はい、じゃあ明日の朝までに」



「なら良いけど。無理しないでよ?」



「はい」



電話を切るとため息が漏れる。やり直しか。今夜も徹夜決定



「大丈夫ですか?」



「うん。何とかしなきゃ」



鞄を持って立ち上がると店の方へ行き、マスターに改めて御礼を告げる。


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