タカラモノ~桜色の片道切符~
「り、理桜くん?反対方向行くんじゃ」




「駅まででしょ?持ちますよ」



慌てて前を歩く背中を追いかける。は、速い。そもそも歩幅が違うんだから。ついていこうと思うと小走りになった



「待って。昨日のお礼もしてないのにそんなこと」



漸く理桜くんに追いつこうとした時、急に目の前が真っ暗になって思わず理桜くんのスーツの端をぎゅっと握り、倒れそうになるのを必死にこらえた



「必要なのはわかりますが自分の限界考えて買ったほうが…美桜さん?」



急に背中に感じた僅かな体温。視線を落とすと、自分の体を支えにするようにして立ち止まる姿があった。



「ごめんなさい。ちょっと眩暈がしてでも大丈夫だから」



強がる彼女の肩に手をやり強引に抱き寄せるようにして身体を支える。


「何するにしても自分の限界考えろ」



「り、理桜くん?」



急に鋭くなった表情に竦んでしまうが、理由を考える余裕もない位気分は悪化していった。




人通りも増えてきている。



理桜くんの立場を考えるとこの状態は非常にいけない。



離れなければと思うが、体は言うことを聞かず、支えられ、意識を飛ばさないようにするのが精一杯



「美桜さん?」



「……」



反応がない。顔を見ると、目を閉じて血の気も失っている。



立っているのももう限界だろう。










どこか休めるところを。と辺りを見回したがビジネス街に目ぼしい建物は無い。



悩んでいると突然車のクラクションが鳴った。



「理桜。何やってんだ。こんなところで。それと……桜井先生?」



「オーナーこそ、すいません。乗せてくれませんか?」



「……乗れ」



車のクラックションが頭に響く。




少しホッとしたような理桜くんの声と聞き覚えのあるテノール。




あ、オーナーさんだ。良かった。お客さんじゃなく……



安心したのか、美桜は意識を手放した。





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