タカラモノ~桜色の片道切符~
最後の日。誤魔化しの言葉はO県へ引っ越すの。




彼の両親が出会い、彼が生まれた町。


扉を開けると変らない、ただダンボールで溢れた家。




彼の笑顔も何も変らなかった。




お仏壇には父親の遺影と少し前に亡くなった彼の祖母の遺影。



何を話していいかわからなかった。




普通よりも幼くて、人が死ぬということの意味がよくわからなくて、優しい人だった彼の父親のことを聞いた気がする。





「お父さんはおばあちゃんといっしょにいったの。だからぼくがおかあさんをまもるんだ。お父さんにはもうおきないから」




そんな言葉を涙も見せず呟く彼の姿と、彼の腕の中に納まるよちよち歩きの彼の弟 剛(ごう)くん。




無邪気な笑顔を振りまいていた。




言った言葉は思い出せなくて、彼を傷つけたんじゃないか




後悔と懺悔が心の奥底に眠り続けている。




ダンボールだらけの部屋の中、いつも遊んだダンボールの秘密基地も壊されていて、おもちゃ箱だけが、ガムテープで閉じられずに、顔を見せていた。





いつもこの箱を開けて遊んだり、喧嘩をしたり。



ロボットや、ラジコンの中、一番上に置かれたランドセル。




すごく似合わなくて、不思議な感覚に陥った。





でももうお別れなんだと改めて実感する。




ぐちゃぐちゃのおもちゃ箱中から彼が無造作に取り出したいつも遊んでいたLサイズのくまのぬいぐる











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