タカラモノ~桜色の片道切符~
「理央くん?」



「少しなら飲めるだろ?」



小さく息を吹きかけ、一口カップに口をつけた



「甘くて美味しい」




「蜂蜜入り。飲めるだけ飲んで」



ベッドに腰掛けると、少し冷たい美桜の頬に触れた



「ごめんなさい。美味しかったんだけど」



「謝らなくて良い。半分は飲めたみたいだし」



カップに残ったミルクは3分の1ほど



「ありがとう。……シャワー借りても良い?汗かいたみたいだし、着替えたい」



「良いけど、平気?」



「うん」



バスルームに美桜を案内すると、買ってきた服たちを袋ごと渡した



「タオルとかは好きに使ってくれていいから」



「ありがとう」



扉を開けると目の前に大きな浴槽があった



「広い……」
温めのシャワーを頭からかぶり、夢見の悪さを飛ばす。



最近は見なかった、百合子が夜中に発作を起こす夢とお母さんが倒れる夢



どうして?美桜は健康な体があるんだから




「お母さんも大変だったのに」




愛されなかったわけじゃない。わかってる。


でも、小さな思い出のピースが棘となって、時折私の心を突き刺す。



そんな自分が嫌。




そういえば今度の新作、百合子楽しみにしてくれていたな。




休むってことはそれだけ仕事が遅れるってこと。



身体に纏わりつく汗の不快感を洗い流す。心もこんな風に簡単に洗い流せたら棘なんて刺さらない。












時間も忘れてお湯をかぶり続けた。
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