タカラモノ~桜色の片道切符~
「美桜」



そっと背中に手を入れて優しく抱き起こす。



腕の中で抱える様にして抱きしめた



「ごめんね?」



「謝らなくていいから」




彼の香りに包まれる。コロンも何もついていない、理央だけの香り。



その香りがひどく安心する。


「……話をしたせいかな。久しぶりに子どもの頃の夢を見たの」



「うん」



「愛されていることはわかってる。でも心のどこかで疑ってしまう。そんな自分が嫌なの。周りが求めるは美桜じゃなくて桜井航なんじゃないかって」



桜井航を求める声に美桜がついていかない。桜井航でいるためなら美桜なんて……





「桜井航として書いた本の中で、美桜としての経験が活かされているんだろ?だったらどうでも良いって言うな。美桜がいて初めて桜井航がいるんだから」




「理央くん」



桜井航も春野美桜もすべて私だ




「勿論頑張ることも、強がることも大切だけど、美桜の場合は極端。辛い時に辛いって言えるのも、強さだと思う。弱い自分も認めないと強くなれない」




「っ」




頑張ってください。ファンのそんな声が何より嬉しくて、何より重かった。




両親の頑張っているわね。の声が何より欲しくて、美桜なら大丈夫。その声が何より寂しかった。





「美桜?」




「こんな私でも良いのかな?書かない私でも良いの?」




桜井航として9年間全力疾走してきた気がする




「当たり前」
涙が、止めどなく零れ落ちてくる。




抑えきれない声が嗚咽となって溢れ出した。




ただ、ただ泣き続けた。子どもみたいに。



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