タカラモノ~桜色の片道切符~
「お父さん」



7ヶ月ぶりの故郷は向こうよりも涼しかった。



「乗って」



変わらないライトバンの後部座席に乗り込み、シートベルトを締める



「百合子は?」



怖い。



「まだ危険な状態だ。優ももうすぐつくらしいから」



「ただいま」



隣の扉が開き、少し大人の顔立ちになった弟、優が乗り込んできた。



「じゃ、行くよ」



マニュアルのエンジン音が、さらに帰って来たことを実感させる



「母さんは?」



「百合子の傍だ。悪かったな。急に」



「大丈夫。お父さんこそ大丈夫?」



見たところ顔に疲れは出ていないけど



「ああ。病院ついたら母さんと交代してくれるか?休んでないみたいだから」



「うん」



変わらない町並みを通って、車は病院へと入っていく。



「お母さん。百合子」


消毒をし、病室に足を踏み入れると、沢山の機械に囲まれた百合子と、疲れのにじみ出た顔のお母さん。



真っ白な病院の雰囲気はいつまで経っても好きになれない


「母さん。少し代わるから休んで」



「お帰りなさい。でも」



「お母さんが倒れたら元も子もないから」



お父さんに連れられて出て行くお母さんを見送ると、ベッドサイドの丸椅子に腰を下ろした。



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