タカラモノ~桜色の片道切符~
「何か作りましょうか?それともソフトドリンクお持ちしますか?シャンパン殆んど手を付けられていないですよね」





「ありがとうございます。大丈夫です。あまり飲むと仕事になりませんし」



20歳と聞いたけれど、纏う雰囲気は私よりも大人っぽい。



自慢じゃないけれど未だに中高校生に間違われることのある私から見ると羨ましい限りだ。



「取材なんですよね?よくオーナーや、お客様があなたの本の話をしていますよ」



オーナーさん社交辞令じゃなかったんだ。少し嬉しくなった。


「僕も読ませてもらいましたけれど、良かったですよ。特に桜トンネルの向こうは好きですね」



「ありがとうございます」













『桜トンネルの向こう』
彼の家の傍を通っていた、私が通学に使った櫻海線をモデルにした電車が走る街を舞台に繰り広げられる高校生の純愛。
『好きなの。テルのこと…』
『真央…』








一般小説として初めて出版したものであり、思い出深い作品。








直接生の声を聞く機会は今までなかったから不思議な感覚



「今回は何の?」



「少女むけのものですね。デビューしたレーベルの」



「なるほど。聞きたいことあります?」




気がつけば隣にいるのはリオのみ。この人かなり話し上手、聞き上手……ってNo1になるくらいだから当たり前か。




「あのリオってどんな字を書くんですか?」




唐突な質問だったせいか、一瞬不意をつかれたような顔をしたがすぐ、さっきまでの営業スマイルに戻って



「理性の理に桜。で理桜」




「女性みたい」




想像したのは帝王の王。夜の王者になるというイメージがしたため意外な回答に思わず本音がこぼれる。



「僕が育った町が桜の綺麗なところだったので」



「そうなんですか」



櫻海線の沿線もその名の通り桜が綺麗なところだ。









桜並木の中を電車が走り抜ける。桜のトンネルといえるくらい美しいもの



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