世にも奇妙な話
 おばさんは微笑んで、俺は自転車を降りて、二人はまた赤信号に変わった信号を待っていた。

 数分が過ぎた。待っている間、車の台数を数えていた。信号が変わると、俺たちは交差点を渡って、俺の言ったとおり、また、今日帰り道として通ってきた道を逆走している。そして数分で榊の家の前に来た。その間、二人は話すことはなかった。唯一話したことはこれだけだ。相手から話しかけてきたのである。

「榊さんとは、お知り合いなんですか」

「そうですけど…」

「友達ですか」

「はい」

 これだけのことだった。

「ここです」

「ありがとうございます。何とお礼を言えばよいやら」

「いいですよ、別に。では」

 なるべく快活に言おうと思っていたが、やはりそうすることはできなかった。二回目の榊の家の前は特に変わっておらず、変わっているものとなれば、榊と代わっておばさんが家の前に立っていることだけだった。

 自転車に乗り、その場をさわやかに立ち去ろうとした。

 俺は気持ちを良くした反面、あー、時間の無駄をしたと心の奥の核の右側辺りで嘆いていた。そう思いながら、またあの交差点に舞い戻ろうとした。

 しかしある道に目がついた。左へ行く道だ。そっちへ行けば、少々疲れるが、橋へ上がれる。

 もしかしたら、またさっきみたいなことがあるかもしれない。

 俺はそんなことはもう嫌だと思いながら、左に曲がった。

 開放感に包まれながら、橋を上って行った。これを越えれば家だと、早くも想像してしまった。

 そして俺は橋の頂上に来た。さっきまでいた交差点を見た。青だった。普通に渡れたのだったが、もうこれで終わりかと思うと、そんなことはどうでも良くなってしまった。

 そこから後は下りだけだと、肩の荷が下りる思いでいたが、下方部を見ると、なにやら工事をしているようであった。

 俺は唖然として、また登頂に引き返した。まだ信号は青かった。それが妬ましかった。

 橋の下り坂を下り、もと来た道を戻って、また交差点に戻った。残念ながら、信号は赤に変わっていた。
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