世にも奇妙な話
 今度はさっきと変わって、そこで数分待った。その時間が長く感じられる。今度は車のナンバーを足してみた。突然車どおりが多くなり、数えるのをやめた。すると歩行者信号が点滅していることに気付いた。

 俺はペダルをしっかりと足の裏に当て、すぐにでもこげる体勢を作った。そして信号が青に変わるのと同時に、再びこぎ出した。

 信号を待っている時から気付いていたのだが、渡り終えたところに、幼稚園にまだ通って間もないような子が泣いていた。そういえばこの辺りに小さな公園がある。きっとそこから抜け出して、ここに来たのだろう。しかしそれにしても、こんなところでは危ない。万が一交差点に出てしまったら、大きな事故は避けられない。

 俺はそれを見て見ぬ振りすることもできなく、その小さな子に尋ねた。

「ねぇ君。迷子?」

 小さい子は一度泣くのを止めて、俺の顔を見た。そして安心してしまったのか、また泣き始めた。

「どこから来たの?ママはどこ?」

 小さい子はうつむきながら、しゃくり声で言った。

「いなくなったの…」

 俺は当てが外れたことに残念に思った。

 公園であるなら、このまま家の帰路の途中にあるのでいいのだが、分からないとなると、再びこの交差点を渡らねばならない。交番はここからこの交差点の対角線上にあるのだ。

 俺は残念に思いながら、一息ついて、その子に目を合わせるよう腰を低くして離しかけた。

「じゃあ、交番に行こうか」

「…うん」

 その小さな子は小さくうなずき、俺の服をつかんだ。そのほうが好都合だった。空いた手で自転車を押すためだ。

「しっかりつかんでついて来てね。ここ渡っちゃったほうが早いから」

 そう言って、まず、なかなか変わらない赤信号の横断歩道を渡るのではなく、青になっているほうの道を渡った。

 渡り終えると、再びその子に話しかけた。

「君はどこに住んでいるの?」

「あっち」

 そう言って、指を指した。その方向は明らかに交差点の向こう側ではないが、交番に行くにはしょうがないだろうと思った。

「君、えらいね。もう泣かないなんて。強いね」

「…うん」

 少し元気付いたようだ。そしていくらか会話をすると、信号が青に変わっていることに気付いた。
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