世にも奇妙な話
 そして渡って、交番に入った。

「…すみません。この子、迷子なんです」

 特に若くもなく、老けてもいなく、それ相応の中年の男性が座っていた。何か記していたようだが、きっと今日の出来事でもまとめていたのだろう。今日も平和だったと。

 一旦手を止め、一枚の紙を机から取り出した。

「…どこで迷子になったんですか」

 警官は偉そうな口調で、かつ何で来るんだよと顔に書いてあった。そんな言い方で、こちらは客ではないが、不快感を持った。

「すぐそこの交差点です。ちょうどこの交差点の対角線の場所です」

「そうですか…ありがとうございます」

 ぶっきらぼうに話す警官に対して、日本の未来が不安になった。それよりも、ここに預けるこの子のことが不安になった。実際に、少しおびえた表情を作っていた。

「ここにいれば、すぐにママが来るから」

 しかしその子はうつむいたまま首を振った。

 その不安を取り除こうと、俺はその子の頭をそっとなでた。

「君は強いんだから、大丈夫だよ。ちょっとの我慢だからね」

 今度はうなずいてくれた。それは結構深かった。強い意思が感じられた。こんなに小さいのにえらいなと思った。

「えらい、えらい。それでこそ男の子だね」

 俺はさらに頭をなでた。

 男の子が泣かなくなって、俺を見上げていた。俺が手を振ると、振り返してくれた。

「じゃあね」

 そう言い残して、交番を後にした。

 俺は外にとめている自転車にまたがり、窓越しにまた交番の中を見た。警官に手を握られ、その場で不安そうな顔をしながら、顔だけがこっちを向いていた。

 俺はペダルに足をかけたが、踏み出すことができなかった。心が男の子の心を見透かして、踏み出すのをとがめている。

 男の子は警官の手に引っ張られて、奥に連れられて行った。

 俺の足は自然にペダルをこいだ。心がきつく絞められて、心苦しかった。

 そしてまたこの交差点に来た。
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