世にも奇妙な話
 まだあの男の子が心に残っており、息苦しい思いでその場で信号が変わるのを待っていた。その気持ちをいち早く振り払いたくて、また車の数を数えだした。誰でも思いつきそうだが、さっきの数え方にαを加えた。逆から来る車の数を引くのだ。はっきり言ってそんなことはどうでもいい。正直になると、あの男の子は母親に会えるだろうかと、母を訪ねて三千里のようなシチュエーションを勝手に描いてしまった。

 歩行者用の信号が点滅し、車を数えるのを止め、横断歩道の先を見た。すると、何やら重いものを担ぐ老人がいた。それは人を求めているように見えた。脳裏によく見かけるマンガのコマがよみがえった。

 信号は青に変わり、俺は向こう側に急いで渡って、その老人に話しかけた。

「あのー…重そうですね。代わりに持ちましょうか?」

 そのご老人はゆっくりと自転車から降りた俺の顔を見た。

 俺は一瞬ドキッとした。今思うと、ご老人に言ったことを後悔した。もしかしたら傷つけたかもしれない。見た目より、実は若いかもしれない。まだ自分のことを若く思っているかもしれない。

 そんな自分を責めながら、老人の回答を待っていた。今頃取り消しなんて出来ない。待つことしか出来なかった。

 老人の口がついに開いた。俺はつばを飲み込んだ。

「じゃあ、お願いします」

 その言葉にホッと腕をなでおろす思いでいた。

「じゃ、それ、持ちます」

「はい、ありがとね」

 荷物を受け取り、俺はそれを片手で受け取った。

「あら。力持ちなのですね」

 照れ隠しをしながら、俺は唇を噛んで、小さくうなずいた。

 そして、信号を待つ間、老人は話しかけてきた。

「高校生ですか?」

「はい、そうです」

 これも暇つぶしが目的の、どうしようもない話なのだろうが、これは気遣いに感じられた。俺が気を使って荷物を運ぼうなんて言ったから、相手も気を使っているのだろう。しかしこの気の使い方は、俺が今までしてきたものとは違った。気軽に話せるのだ。初対面の相手なのだが、なおかつ俺の五倍近くの歳が離れていそうなのだが、不思議な感覚だ。まるで祖母と話しているようだ。

「何をやっていらっしゃるのですか」

「バトミントンです」
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