世にも奇妙な話
 俺は少しばかり、甘えに負けていたのか、もしくは地面の坂に流されてしまったのか、自転車の車輪は公道に出ようとしていた。

 すさまじい音が右耳に入ってくる。クラクションのような音だった。

 その音に俺は目覚め、目の前に大型トラックが迫っているのを見た。

 気付いたときは遅かった。俺は何をやっているのか。いまだに耳にはクラクションの音が響く。

 しかし、クラクションの音の響きは、右から左に変わっていった。

「ちょっと、危ないじゃない。大丈夫だった?」

 それは聞き覚えのある声だった。それもそのはず、その声の主は初めに道を教えた、あのおばさんだったのだ。俺の荷台を引っ張って、トラックに轢かれるのを助けてくれたようだった。

 俺は放心状態でいた。

「大丈夫?」

「…何か、疲れちゃって」

「しっかりしなさいよ。若いんだから」

 すると、その後ろから、老人も現れた。

「あらあ、まだいたの」

 老人は俺に近づいて、その時の節はどうもと挨拶をした。

 どうやら荷物を渡しに行っただけのことだった。特に詳しい話もせずに、すぐに戻ってきたらしい。俺との話で十分だったのか。

「あ、お兄ちゃんだ」

 迷子になっていた男の子は、若い女に連れられていた。

「ありがとね。これ、お兄ちゃんが見つけてくれたんでしょ?」

 男の子の手には落し物が握られていた。

 不思議だった。ここに俺が助けた人たちがそろった。こんなことがあるのか。おばさんを道案内して、迷子を交番に連れて行き、老人の荷物を持ち、落し物を若い女に渡して迷子の場所を教えた。そして俺はおばさんにこうやって助けられた。この周期的なものは何だろうか。

「あら、さっきより、いい顔になったわね」

 俺の顔から笑みがこぼれ落ちていた。

 人はどうやって生きているのだろうか。

 俺の心は温かくなっていた。
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