世にも奇妙な話
 夫は手馴れた手つきで道具を取り出した。この道具が無いといつも落ち着かない。実は夫は工師で、こういう小さなものを職人のようにアクセサリーに変形させて、一つの商品にする。この貝殻もそうだ。しかし工作といってもたかが知れた程度で、彩色して、穴を開けて、そしてその穴からネックレス用の線を通した。その工作時間は一時間程度で、作り終えると夫はまたベッドに横になった。

 妻が帰ってくると、妻の一言で夫は起きた。そして妻と、今日はホテル外のレストランに行くことにした。妻は今日のショッピングのことを存分に楽しめたと話した。夫も明後日辺りにまた行かないかと聞いた。妻はいいよと言った。明後日というのは、明日は近くの島に行く予定になっていたからだった。

 近くの海鮮レストランに入り、同じドアから店を出た時の二人は満腹だった。これからこのまま外ですることもなく、ホテルに戻ることにした。

 そのホテルに戻って、部屋のある会に昇るエレベーターの中で、夫は妻に作ったアクセサリーを渡した。

「これ、私に?」

 妻は子供のように喜んだ。それはよかったのだが、あまり喜ばないでもほしかった。それが元はああだったのにと、夫は恥ずかしくてたまらなかった。

 しかしその寿命は短いもので、いや、あまりに短いもので、次の日、モーターボートに乗って隣の島に向かう途中、妻は船上でバランスを崩した。夫は支えてあげたが、その振動が強かったのか線は切れ、アクセサリーは、無情にポチャンという音はエンジン音に掻き消されて、白いしぶきに消えていった。

 妻は悲しそうな顔をして、ごめんなさいと夫に言ったが、夫は言う。

「海に帰ったね」


「…なんか、くさくない?」

「そうか?」

「親父ギャグに加えて、よくあるラブストーリーって感じ」

 それをきっかけに二人は話を発展していった。先ほどまで話をせず、しんみりと気まずいような雰囲気は嘘のようだった。たった一枚の貝殻で人生の幸せを引いてしまったようだ。

 しかしこの貝殻について、二人が考えていることとはまったく、大きく違うことばかりだった。
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