世にも奇妙な話
 まずラブストーリーのような、そんないい話ではない。この本当のハマグリの意味。もっと残酷で、悲しい運命をたどっていた。もしそうなるのであれば、この貝殻は見つからなかったほうがよかったかもしれない。

 それはさかのぼること、戦国乱世。約四百年以上前の話になる。舞台は日本。かけ離れて外国ではない。

 悲惨で誰も知らない、伝記にさえ残らない、一つの過去。


「若様」

 大きな声で呼びかける女中、お月だった。お月は一つの箱を持ちながら縁側を走って、ある部屋の前にひざまずいた。

「何だ騒々しい。それで用は?」

 お月はふすまを開けて、中に入った。

「届きましたよ。これでよろしいのですね?」

「おお…これは」

 お月は箱を差し出し、若はすぐにその箱に飛びつき、まだ幼かったので女中はその光景を微笑ましく見ているが、お月は周りを察知していたのか、辺りを見回した。

 そして手に取った貝殻。それは職人の手によってきれいに彩色されていた。

「きれいだ…」

「そうですよ。これは国一番の絵師によって描かれた物ですから」

「うむ。そうだ。やはりあやつはいい腕をしておる」

 天井に掲げ、若は言った。そしてそのまましばらく眺めていると、辺りが寂しかったことに気付いた。

「そういえば、父上はどこへ行ったのだ?」

「義成様は、現在治水を行っているそうです。なにやらまた川が氾濫したやらで…」

「そうか。私もすぐに父上の助けにでも行きたいものだな。そういえば、景虎は?」

「景虎様は、勝頼様を連れて、町の警備に当たりました。最近また、盗みがあったようで」
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