世にも奇妙な話
 ぐいっと肩を引っ張られて倉庫に戻っていた。そこには担任がいた。今度こそこってりと絞られるに違いない。

 私はその状況を素早く把握し、何か脱出策はないかとあちこちを探った。しかし次の瞬間、担任の口から思いもよらぬ言葉が出てきた。

「そんなに見たいなら、最後まで見ろ」

 担任の言った言葉が私を困惑させた。なぜそのことを知っているのか。また担任も見たのか。

 そして私の体は石の方に向けられ、私はまた石に触れた。

 辺りには人がいなくなっていた。空は快晴で、何か喜びを感じた。壁の向こうの町はこちらの町と同じようで、だがどことなく暗い雰囲気だけはなかった。現れる人は壊れた壁をまたがり、微笑んでいる。

 するとその人の中、どことなく見たことがある、老人が現れた。老人と言っても白いひげをあごから垂らし、紙はほとんどないように見えたからだった。帽子をかぶっていて、よく分からない。腰も折っていたので、老人だと思う。

 その老人は壊れた壁の前まで歩み、ゆっくりと腰を下ろし、一つの石の塊を持ち上げた。他にも選別するようにして持っては置き、持っては置きを繰り返していた。そしてある一つの石を持ち上げると、老人はその石を丹念に観察し始めた。すると目からぼろぼろと涙を流すのであった。

 その時、私はその老人が誰であるのか気付いた。その老人は、少年だった。よく見れば目元や口元はそっくりであった。この世界ではすでに何十年も経っていたようだった。

 私はその瞬間、ああ、とすべてを把握することができた。

 老人は懐かしみ、それを持ってそこを立ち去った。

 そしてその後、雲は急激に早く流れ出した。青空や茜空や鉛空、あらゆる空を見ると、壊れた壁を片付ける人々が集まりだした。そしてそれを片付けている。その中に、確かに見えた人がいた。担任だった。しかし担任はずいぶん若かった。私は驚いた。担任は石を持ち、ハンカチで大事に包み、ポケットに入れた。その行為はまったく理解できなかった。担任は消え、作業は進む。そして目の前がぱっと明るくなったかと思うと、倉庫に戻っていた。
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