世にも奇妙な話
「え、ウソでしょ?」

 突然の純一の言葉に、私は戸惑った。なんで、今にこんなことを言うのか。まさか引越しなんて。国内ならまだいい。しかしそれがアメリカとなると、会う機会がまったく無い。その上、明日出発なんて、急すぎる。やっと純一のことを、違う好感を持ち始めていたのに。

 純一は一つため息をし、首の後ろを掻いた。「だから、あの時の約束は、叶えられないかもしれない。ごめん」

 しかしその言葉は、私を逆鱗に触れさせたにしか過ぎなかった。「なんで…なんでそんなこというの。約束は破るためにあるんじゃない。目標としてあるのよ。バカ。もうアンタの顔なんて、見たくない」そう言い残すと、私はその場から離れて、走り出していた。もちろん純一を置いて。涙を袖で拭き、人混みを掻き分け、決して後ろを振り向かずに、駅を目指して走った。純一は追いかけてこない。そんな気がしたが、決して止まらなかった。

 昼下がりの東京は、止まることを知らなかった。

 ベッドの上でうずくまり、枕を抱いている自分がいる。そして音も立てずに、静かに泣いていた。しかしそんな静寂の中を、携帯はさっきから鳴り続けていた。

 そしてそのまま何分が経ったのであろう。私はようやく携帯に手を出し、ゆっくりと開いた。受信メールは五十一件あり、また新たなメールが届く頃であった。私はそのメールの受信を中止し、今まである受信、送信メールをすべて消去した。そしてとどめに電話帳に登録してある純一を消去した。携帯の電源を切り、そのままそれから手を離した。もうこれで会うことは無いだろう。私はそう心に誓い、そのまま気を失った。
< 9 / 42 >

この作品をシェア

pagetop