Snow&Cherry
床に流れた真っ赤な血を気にする風もなく、佐倉は足を進める。
白い上履きに、赤い花が咲くように血が飛び散る。





「君と会うのは二回目だね。永瀬瑞季。」






佐倉はにこにこしながら話を続ける。
しかし、佐倉と会うのは二回目ではないし、佐倉はフルネームで人を呼ばない。







「………お前、誰だよ。」







見てくれは完全に佐倉だ。
だけど、話しているのは…………………。






「今言ったでしょう。僕の名前はハルです。」







ハルと名乗る少女は、多田をガンッと蹴った。
そして、あはははと声をあげて笑う。

そのまま血のベッタリついた手で、包丁を握りなおす。





「推理力のある君ならわかるでしょう。多田明日香を殺したのは、この僕だって。」






ハルは楽しそうに話をする。
まるで、この殺人がゲームかのように。



でも、ゲームなんかじゃない。
血の臭いが教室に充満してるし、多田の顔色は、白だ。






「……お前はなんなんだ?」




随分とバカみたいな質問だが、これがわからないのだから、他に質問のしようがない。

ハルとは、何者なんだ?
ハルはどうして、多田を殺した?


佐倉は今、どこにいる?


「僕は、佐倉奈々のもう一つの人格。ハルっていうのは僕が自分でつけたんだ。サクラだからハル。良い名前でしょ?」


ハルは、まるで子供のように、無邪気に笑った。
……そう。ハルは佐倉より、少し幼い気がする。
行動も話し方も笑い方も。




「もう一つの人格って……………どうして。」





前に、二重人格者が殺人を犯すという本を読んだことがある。
その犯人は確か、幼い頃の記憶と大人の記憶が別離してしまって、二重人格者となってしまうというストーリーだったはずだ。



フィクションだし、二重人格者が本当にそういう理由でなってしまうのかはわからないが、今は持っている知識をフル活用するしかない。


ハルはいかにも可笑しいといったふうに笑い、血のついた人差し指を真っ直ぐつき出した。








「君のせいだよ。」










ハルは「本当は君も殺すはずだったんだけどなー」と残念そうに呟くと、パラパラとノートのような物をめくった。

「永瀬瑞季。サッカーボールを何度も蹴り、撲殺。
この文章は、一年前に佐倉奈々が書いた物だよ。」


ハルは、ノートのような物をパタンと閉めると、鞄にしまった。
どうやらビニール手袋をして反抗に及んだようで、ハルの手に、血はもうついていなかった。


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