聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
リュティアは鎖を引きちぎれないかと渾身の力で両手両足をばたつかせる。しかし鎖は重く頑丈で、冷たい。パールの言葉のように。

―この鎖を切らなければ。

リュティアは意識を鎖に集中させた。そんなことで何かできるとは思っていなかった。けれどやらなければならないのだと思った。手元に残った聖具の力で、なんとかしてこの鎖を切るのだ。

その時リュティアの脳裏に浮かんだのは聖具の力を使う時の星の光の想像ではなく、先ほど夢の中で見たリュリエルが剣を生み出す場面だった。

―力を、集める。集めて、形に、する。

リュティアは目を閉じて集中した。今彼女のそばでどんな物音をたてても大声を出しても気がつかないだろうほどに。恐怖や絶望や焦りが彼女の中から遠のき、代わりに鮮烈なビジョンが彼女を支配する。

まばゆい光のビジョン。

―力が、集まる。集まり、形に、なる。

光の剣になる。

―それを鎖に、振り下ろす!!

集中が途切れる。

カンと澄んだ音が両手両足で鳴り、リュティアは我に返った。

鎖はすべて切れていた。

「…できた……?」

自分でも自分のやったことが信じられずリュティアは呆然とした。聖具虹の指輪にこんな力まであったとは―リュティアは今のが聖具の力だと信じていた―。が、一刻も惜しいことに思い当るとすぐさま残った鎖を振り払い、身を起こした。

パールが刻印と呼んでいた右手の甲の文様のような怪我が痛むが、構ってはいられない。

ふたつの聖具を探すのだ。

今聖具を取り戻し世界を救えるのは、自分たったひとりしか、いないのだ。

リュティアは勇気を振り絞り、駆け出すのだった。
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