聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
焚き火に小枝をくべるラミアードの向かいに、リュティアは探し求めた人の姿を発見した。

護衛官の制服に身を包んだその背中…。

カイ、お兄様、と声をかけようと口を開きかけたが、その時リュティアの耳にラミアードの続く台詞が届いた。

「…この国の真実の王子はお前で、この身には王家の血など一滴も流れていないのに、私が国王でよいのかと。これからも悩み続けていくだろう」

―え…?

リュティアには言葉の意味が理解できなかった。

それなのに咄嗟に木の影に身を隠していたのは、何かただならぬものを感じていたからだ。

―お兄様は、今何と言った…?

「悩むことなどありません。宝剣アヌスはあなたを選び、現に立派に国を治めていらっしゃるではないですか」

「だが、王族にしか触れることのできないあの剣をずっと携えてきたのはお前だ。その時点でお前も王の器に選ばれていたのではないかと、私は考える」

「私はそうは思いません。血など、なんの意味がありましょう。真実の王は血で決められるものではないはずです」

リュティアの頭は情報を整理しようとめまぐるしく動いていたが、うまくまとまらない。心は真っ白で、ひどく混乱していて、二人の会話がしばらく耳に入ってこなかった。

―血…?

―王の器…?

―何?

―いったい何を…?

きっと何かのお芝居だ。そうに決まっている。

しかし音を立てるようにリュティアの血の気が引いていくのは、その内容が芝居などではないことを頭の片隅が理解しているからだった。
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