聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「じゃあ、ずっと捜していた〈光の人〉が、そのライトとかいう魔月王だったというのか?」

「そうです。リューの前世からの運命の恋人が、ライトなのです。信じられないことです。リューが私の実の妹だということですら、いまだに信じられないのに……」

リュティアは身を翻していた。

どこをどう歩いて、天幕に戻ったのかはわからない。

だが気がつくと、リュティアは自分の天幕の中に呆然と立ち尽くしていた。

鼓動がうるさいほどに騒いでいた。

あまりにもうるさくて、少し止まっていてくれないかと思うほどだ。そう、止まっていてくれれば、自分は今聞いた話の内容を理解しないで済むのではあるまいか…。

しかし、悲しいことにそう願うリュティアの頭はもうすべてを、すべてを理解してしまっていた。真実の王子。
王族にしか触れられない剣。血。


―私とカイは、兄妹だった…!!


それは心という器が高いところから地に叩きつけられ、粉々に砕けるような衝撃だった。慌ててその破片を集めようとしても、鋭い破片が手を傷つけ、血が流れるだけ――。

―だからだったのか!

だからカイは助けに来なかった。抱き締めてくれなかった。兄妹だったから、もう自分を妹としか見ていないから、だからだったのだ!

「でも…愛していると、言ってくれた……」

唇から自分のものとは思えないような細い声が漏れる。

その声に、残酷なまでのもう一人の自分の声が返る。

―それは、兄妹だと知らなかったからだ。

「花嫁にすると、言ってくれた…!」

―それも、兄妹だと知らなかったからだ。

カイはきっとそのあと知ったのだ。助けに来なかった。抱き締めてくれなかった。それが彼の今の心の証明ではないか。

―カイはもう、私のことなど、なんとも思っていないのだ…!!

リュティアはわっとその場にしゃがみこんで泣き伏した。
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