聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
血だらけの心の破片を前に、ただただ、涙することしかできなかった。

リュティアはあと少し、ほんの少しでいいから二人の会話を聞くべきだったのだ。なぜなら会話は――

「信じられない、いや、信じたくないのだと思います。リューを愛しているのです。たとえライトが〈光の人〉だとしても、渡したくありません。花嫁にしたい。けれど…兄妹である事実を知らせぬまま彼女を花嫁にするのは、彼女を騙しているように思えるのです…。だから今夜、すべて打ち明けるつもりです。そしてもう一度求婚します」

「拒絶されてもいいのか?」

「…これはライトにリューを渡したくない、私の最後の抵抗です」

「…止めはしないよ」

こう続いたのだから。

休憩が終わり、持ち場に戻ったカイは、緊張していた。

兄妹だと知れば、リュティアはどんな顔をするだろう。実の兄であるのにこんな気持ちでリュティアを想う自分を、拒絶するだろうか。だがラミアードに語ったとおり、カイはもうリュティアを騙したくなかった。

カイが決心を固めたのは、夜もかなり更けた時刻だった。

こんな時刻に女王の天幕に堂々と忍び入ることが許されるのは、不寝番の護衛官だけの特権であっただろう。
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