聖乙女（リル・ファーレ）の叙情詩～奇跡の詩～
カイは、リュリエルの記憶など、絶対に取り戻させたくないのだ。

リュリエルの記憶を取り戻す。それはすなわち〈光の人〉への想いも取り戻すことを意味しているのではと思うからだ。ああ、だが、そんな記憶を取り戻さずとも二人はすでに両想いではないか。そう思うとカイの心はじりじりと焼け焦げるようだ。

―そばにいるからこうして心が痛み続けるのだろうか。

―離れれば、少しは楽になるのだろうか。

カイは相当思い詰めていた。

楽になれるのならば、…それもいいのかもしれない。

「…わかり、ました……」

カイのこの返事に一番うろたえたのはリュティアだった。

―カイが旅立ってしまう？

そばにいるのは辛い。だが離れるのはもっと辛い。

しかし行かないでとどうして言えるだろう。ことは世界に関わるのだ。

リュティアがぐっと唇をかみしめた時だった。

「その必要はないよ」

図書館に幼い声が響き渡った。

聞き慣れた声。けれど久しぶりの声。

一同は反射的に声のした方を振り向く。

図書館の入口の柱にもたれかかるようにして、小さな人影があった。

ちょうど逆光になり、人影の顔はよく見えない。だがその頭が金色に輝いているのだけは誰の目にもはっきりとわかった。

金の髪を持つ、少年と言えば―――。

「パール…！！」

そう、そこには、あのパールが立っていたのだった。
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