聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
パールは堂々と鉄の扉を開け、ひと月ぶりにこの部屋以外の空気を吸った。

部屋に鍵がかかっていないのはわかっていた。そのかわり見張りの魔月が一匹いることもわかっていた。昼のこの時間見張りの魔月が食事のためいなくなることも、この一月の間に聞いた物音や気配だけでパールは見抜いていた。

勝手知ったる自分の城のように、パールは悠然と廊下を歩く。歩きながら観察する。少し見ただけで、パールには様々なことがわかる。

たとえば、燭台。

あかりがどれくらい灯っているか、ろうそくの減り方はどのくらいかを見れば、ここが城主不在の別荘なのか城主が腰を据える居城なのかが一目でわかる。

ここは居城だ。魔月があちこちであわただしく動いているから、たった今城主がこの城にいることもわかる。

それに、城の壁や柱からわかる建築様式。この建築様式は間違いなく旧トゥルファンのもの―つまりここはグランディオムだとわかる。

さらに、窓の外に目をやれば、そこにそびえたつコルディレラ山脈が見える。その見え方で、パールにはこの城の正確な位置までわかるのだ。
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