聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
闇の城の回廊を、金の輝きが駆ける。

太陽の光を眩しく反射するその輝きは、パールの金髪である。

パールは太陽の位置を確認しながら、後ろを振り返りながら走っていた。だから前方の人影に気づかずどすんとぶつかってしまった。

わっと叫んで飛びのき、首を巡らせて、目に飛び込んできた姿。

それは緩やかに波打つ桜色の髪の乙女であった。

「乙女(ファーレ)! なんでこんなところに?」

「パール!」

リュティアは不安そうに胸を押さえ、その美しい瞳を揺らした。

「ここはどこなのでしょう。私もさらわれてしまったみたいなのです。一緒に逃げましょう」

「うん!」

パールはリュティアの手を取って駆けだそうとした。

「あれ…乙女、指先が獣の爪になってるよ」

「え!?」

慌てたようにリュティアが自分の手に視線を走らすのを、パールは冷たい目で見上げた。

「な~んてう・そ! 白々しい演技はよしなよゾディアック。この僕が、この右手の刻印が変身に使われるものだと気付かないとでも思った? どうせ乙女をさらって僕と同じことをしたんだろうね。それで僕を騙そうなんて、ふん、あったまわるいね」

リュティアの表情が豹変した。

その瞳にはあやしい黒い炎が燃え、その頬には邪悪な微笑みが浮かぶ。

「頭が悪いだと? 笑止! 私の脳はお前の三倍ある。小鼠がちょこまかと私の城で何やらやっているようだが、こんなところで私にみつかるとはお前の予想外だろう。頭が悪いのはお前だ。せっかく生かしておいてやったのだから、大人しく逃げていればよかったものを。ここで、死ね!」

どこに隠し持っていたのか、リュティアの姿をしたゾディアックがナイフでいきなり斬りつけてきた。パールはそれを危ういところでかわし、一目散に駆けだす。

「や~なこった!」
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