聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
ゾディアックが悠々と、決して急いでいるようには見えない足取りでその後を追う。

「ここは私の城だぞ。どこまで逃げられるものか」

実際、パールはすぐに追い詰められた。

さきほどの溶岩の間に。

じりじりとあとじさるパールの背後では煮えたぎる溶岩がぼこぼこと恐ろしい音を立てている。ゾディアックが赤い溶岩の照り返しを受けながら、リュティアの顔で勝ち誇ったように笑った。

「もう逃げ場はないぞ」

「そうかもねっ!」

パールの表情には余裕が見える。絶体絶命のピンチであるのに、なぜだろう。

ゾディアックがナイフを振り上げたその時だった。

「パール!! パール!!」

激しい足音と共にふたつの人影が溶岩の間に躍りこんできた。

体のあちこちに包帯を巻きつけたフレイアと、たくましい腕に大剣を構えたジョルデであった。

まるではかったようなタイミングであった。しかし、そんなはずはあるまい。

「リュティア、じゃないんでしょうね! 私のパールに手ぇ出したら絶対許さない!」

駆けこみながら問答無用でフレイアが振り下ろした短剣を、ゾディアックのナイフが危ういところで弾く。

パールはその隙にゾディアックの背後からするりと逃げ出す。右に左に繰り出されるフレイアの二撃、三撃が次々とゾディアックを襲い、桜色の髪が断ち切られ宙を舞う。

「おっと。さすがにこの姿では不利か」

見る間にリュティアの体がぐずぐずと崩れ、中から竜の三つ頭のおぞましい魔月が現れた。
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