聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「ゾディアック!! 今度こそ絶対、負けないわよ! ぎったんぎったんにしてやる!」

フレイアがどすんと大地を蹴って大きく踏み出すのを、パールはちらりと一瞥する。

「下がれフレイア! ここは私が!」

「だーっ! 下がってなんていらんないのよ!」

「こらっ、危ない!」

ジョルデがフレイアをかばって跳び、もんどりうった。

数瞬前までフレイアの頭があったところで三つ頭の鋭い歯が噛み合う。パールはそれをひたと見据える。何かを待つように。いったい何を待つというのか。

ジョルデが体勢を立て直すのは素早かった。受け身が完璧だからだ。

「さがってろ!」ジョルデは左手でぽかりとフレイアを殴りつけると、大剣を握り直して低い姿勢でゾディアックに向かっていった。

パールは冷静に分析する。―ジョルデはフレイアのように激しく地を蹴ることはない。足元は静かでありながら上半身に力を込め、攻撃を繰り出すことができる。

低い姿勢からのジョルデの渾身の突き攻撃は、分厚い毛皮に阻まれ弾かれた。

これにはジョルデも驚いたようだ。今までこの攻撃がきかなかった相手などいなかったのだ。

「くそっなんて毛皮だ。剣はきかないのか!?」

ジョルデの後ろでパールは目を閉じていた。少し距離があるとはいえじゅうぶん危険なこの場所で、目を閉じるなど正気の沙汰ではない。いったいなぜなのか。

「ほうら」

ピカッと、強い稲光のような光が突然ゾディアックの六つの目から放たれた。

まともに光を受けたジョルデは目を押さえて呻く。目つぶし攻撃だ。ジョルデだけでなく、なんと後方にいたフレイアまでもが目を押さえて苦しんでいた。なんとゾディアックは磨かれた壁面の反射を計算に入れて光を放ったのだ。

「はーはっはっ。どうした、頭を使え! 頭の悪い人間どもめ!」

ゾディアックの嘲笑が高らかに響き渡る。
< 117 / 172 >

この作品をシェア

pagetop