聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「目なんて、見えなくたって、気配で…わかるわよっ!」

フレイアの短剣が宙を飛ぶ。

しかしやはり狙いを定められず力が弱い。ゾディアックは短剣を後ろに跳んでかわした。

その時だ。

後方に控えて何もせずにいたパールがかっと目を見開き、突然大声を張り上げたのは。

「ジョルデ! 後ろに跳んで!!」

「!?」

ジョルデは鍛え抜かれた戦士であるからその反射神経は並みではない。

だからすぐさまパールの言葉通り後ろに跳ぶことができた。

すると世にも不思議なことが起こった。

突然―――。

あまりにも突然、ガシャンと音を立ててゾディアックの立っていた足場が崩壊したのだ!

フレイアにもジョルデにもゾディアックにも、何が起こったのかわからなかった。

特にゾディアックには、なぜ自分が落下しているのかわからなかった。

ただ気がついたら、ゾディアックは灼熱の海の中で溺れていた。

「ぐわあ!! なぜだ!! なぜ床が! ぐわぁぁぁっ」

それが、ゾディアックの最期だった。

「倒し…た…?」

やっと見えるようになってきた目をしばたたくフレイアとジョルデに、パールが聞かせたのは得意げな声だった。

「へへっ、計算ど~~~り!!」

にこっと笑って、ブイサインをつくる。

計算通り。そう、計算通りだったのだ。

恐ろしいことにこの少年は、どんなタイミングでフレイア達が助けに来るか、二人がどういった戦い方をしてどの程度床に衝撃を与えるかまで完全に計算して、床にヒビを入れておいたのだ。

それだけではない。そもそも抜け出すのを昼食が運ばれてくる直前にしたのは脱走の事実を知らせてゾディアックをおびき出すためであったし、太陽の位置を計算しながら回廊を走ったのはそろそろ来ているはずのフレイア達に場所を知らせるためであった。

すべてはパールの手の上だった。

ゾディアックの三つの脳より、パールの脳の方が一枚も二枚も上手であったのだ。
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