聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「まっかせなさい!」

「この手のつけられない二人は、私がちゃんと護衛するさ」

そう胸を張るジョルデがいてくれるならば、道中の危険も少ないだろう。

約一名この話の流れについていけずに目を白黒させている人物がいた。

「フレイア…って、フレイア王女!? どうしてここにっ?」

陸軍総帥グラヴァウンである。

フレイアは彼に視線を向けると、軽く手を持ち上げて挨拶した。

「やっほ~グラヴァウン! 話せば長くなるから答えは省~略! 相変わらずイイ体してるわねぇ」

そんなことを言いながら突然グラヴァウンの胸板を叩き始めたフレイアに、グラヴァウンは真っ赤になって縮こまる。

「お、おやめください王女」

フリードがこらえきれないという様子で噴き出した。こんな弱弱しいグラヴァウンは初めて見たのである。

フレイアはひとしきりいやがるグラヴァウンの胸板を叩いたあと、不意ににやにや笑ってカイに近づき耳打ちした。

「…で、リュティアと進展はしたの~?」

カイはその声で我に返った。

ずっとぼーっっとしていたのだ。

フレイアがリュティアに何のためらいもなく抱きついたから、それに嫉妬して…、嫉妬しながらその柔らかさを想像して、ぼーっとしていたのだ。

反射的にカイは正直に答えてしまった。

「………サイアクです」

「あらら」

そんな一見仲のよさそうな二人の様子を見て、人知れずリュティアは青ざめていた。

嫉妬である。

だがただの嫉妬ではない。二人を見ていて、もっと恐ろしい可能性に気付いてしまったのだ。

―このままカイのそばにいるということは、カイが他の女の子と恋をするのを間近で見てしまうかもしれないということ。

どうしてそんなことに耐えられるだろう。

―離れたい…!

リュティアの心が叫んだ。

そばにいたい。確かな気持ちがあるのに、離れたい、その想いが激しく突き上げてくる。

この日を境に、リュティアとカイの二人はほとんど口をきけなくなってしまう。互いに辛くて、離れたくて、なのにそばにいたい。だからそばにはいるのだけれど、辛くてまともに口をきけないのだ。

二人のすれちがいは、どうにもならないほど深まっていくのだった。
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