聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~

風竜。

それは風の支配者。

すさまじい竜巻が奴の衣。

気まぐれで神出鬼没。ひとたび奴の鋼の尾がうねり、鋼の翼がはばたくのを見た者は、たちまちのうちに引き裂かれるという。

その容赦のない風の刃が今、プリラヴィツェ王都ラヴィアを襲っていた。

唸りをあげ、大地を削りすべてを引き裂く風の嵐。

その圧倒的な力を前に、人々はみな引き裂かれ死に絶えたのであろうか。

いや、人々は聖なる光の壁に守られなんとか生きながらえていた。

王都全体を球状に包み込む、淡く優しい、だが風の刃を弾き返す強さを秘めた光の壁。その中心には、金の髪の麗人の姿があった。

額に玉のような汗を浮かべ、両腕をかざす彼は、セラフィムである。

セラフィムは今、風竜の絶え間ない風の刃から、たったひとりでプリラヴィツェの人々を守っているのだ。

「フューリィ」

愛しい声に名を呼ばれ、フューリィは振り返った。

ちょうどセラフィムのための飲み水の水筒にさわやかな飲み口になるレモンを絞って垂らしているところだった。それくらいしか今のフューリィにできることはないのだ。
< 121 / 172 >

この作品をシェア

pagetop