聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~

「姉様! 姉様、しっかりして!」

「フレイア、大丈夫か!」

耳元でわんわんと響くのは、パールとジョルデの声だ。

―なんだっていうのよ。

肩を抱え起こされて、フレイアは自分が地面に倒れこんでいたことに気が付く。

どうして自分は倒れたのだろう。

ゆっくりと顔を上げ、フレイアは世界の異変に気が付く。

黒い髪、黒い服、黒い列、黒い棺――

いったいどうしたというのだろう。なぜ世界から、色が失われてしまったのだろう。

「パール、…変なの、色が……色、が…」

その時黒一色の世界に色彩が生まれるのを、フレイアの瞳はとらえた。

鮮烈な赤。

棺にそっと捧げられた花の色。

血のイメージ…。

それがフレイアの心臓をわしづかみにする。

―『遺体はお見せできません。とてもお見せできる状態ではないのです』

脳裏によみがえる声が誰の声かわからない。だが先ほど確かに聞いた。聞いたのだ。

―遺体…?

体がぶるぶる震えだす。

見たくないのに、見えてしまう。

血色の花の下、黒い棺に刻まれた名前―――。


“エライアス”。そして…

“ザイド”――。

「うそよ――――――!!」
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