聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
足音はなんとどしどしと階段を上り始めた。リュティアが今まさに上っている階段を!

リュティアは息をのみ、咄嗟に足音に合わせて一段、二段と階段をのぼった。気付かれないようにするには、このまま足音と合わせて階段を上りきるしかない!

一歩一歩が地獄のように感じられた。心臓が口から飛び出そうだ。

二階に足をつけた瞬間、リュティアは身を翻して階段からは見えない壁にぴたりと身を寄せた。

―気付かれたか!?

足音が二階の影に隠れるリュティアに迫る。獣特有の荒い息づかいが迫る。

そして――

足音と息づかいはそのまま、階段をさらに上へと上って行った…。

リュティアはその場にしゃがみこみ、ふぅ、と長い息を吐きだした。心臓がいくつあっても足りない。

十分に時間を置いてから、リュティアは階段を上へ上へと上った。聖具の気配をもっとも強く感じられたのは、四階だった。リュティアは時に息を殺し身を隠しながら進み、ついにその部屋を発見した。

そこは扉がなく、かわりに黒曜石で出入り口が美しく縁取りされた小さな部屋だった。

この手の部屋が祈りのために用いられることをリュティアは知っていた。だが彼女の知る光神への祈りの間とは、漂う雰囲気が根本的に違った。もっととても禍々しいものを感じる。

しかしリュティアはその禍々しさの中に、聖具の気配をはっきりと感じるのだ。

部屋の前には敏捷そうな猿の魔月が二匹見張りに立っていた。

見張りがいる可能性はもちろん考えていた。しかしまともに戦うことのできないリュティアにできることは限られている。
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