聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
逃げ惑う人々と飛び交う火矢、あがる黒煙で王都は混乱を極めた。

戦局は信じられない方向に転んでいた。

最強の武を誇るヴァルラムの正規軍3000が、普段弱兵と侮る同数のアタナディール軍に押されているのだ。

その理由のひとつは今回アタナディール側が持ち出してきた武器が槍であったことだろう。槍はリーチが長く、ヴァルラムの人々が好む剣や短剣では分が悪い。

もうひとつの理由は兵の士気だ。正規軍が軍神とあがめるエライアスの死が、兵たちの士気に想像以上のダメージを与えていた。彼らはフレイアの命令に従うには従うものの、その動きは鈍く、すでに魔月軍の攻撃により祖国を失いいわば捨て身でかかってくるアタナディールに対応しきれない。

フレイアはなんとかして兵たちの士気を高めたくて、自ら鎧に身を包み前線に出ることにした。

今の最前線は王都の巨大な中央広場“槍の広場”だ。

「私に続いて!!」

勇ましく声を張り上げ駆ける彼女のすぐそばにはジョルデがぴったりとつき従う。

怒号と悲鳴に満ちた最前線で血まみれになって剣をふるうのを、フレイアは厭わなかった。守るための戦いにためらいはなかった。

しかしそんな彼女の姿に鼓舞されたのは一部の兵だけで、やはり全体として動きが鈍い。そんな折伝令がもたらされる。
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