聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
ほどなくして戦局はアタナディール軍の撤退という形で終結を迎えた。第三の勢力の強さは圧倒的だったのだ。

それだけではない。兵たちは戦いながら、覆面の男たちの先頭に矍鑠(かくしゃく)とした老人王エライアスの姿をみつけた。ゆえに俄然全兵の士気が上がり、見事勝利とあいなったのである。

フレイアの目の前で、助けてくれた覆面の男が頭巾と覆面を取り払った。

その下から現れたのは、案の定愛しいたったひとりの人の笑顔だった。

それは、なんと呼ぶべきことだろうか。間違いなく、信じる心が、起こしたこと。

「ザイド――――」

「よっ、フレイア。アタナディールの奴らが捨て身で我が国を落とそうと狙っている動きがわかっていたんでな、わざと葬儀を行い隙をつくったと見せかけて、徹底的に叩き潰したかったんだ。そのために陛下と共同で別働隊を結成していたってわけだ、はは」

「…………」

「フレイア…?」

そこでザイドは驚いたように声を詰まらせた。

「泣いてるの、か…?」

そういわれて初めてフレイアは自分が泣いていることに気が付いた。ぼろぼろと大粒の涙がこぼれているではないか。

―泣かないと決めたのに、泣き虫じゃないのに、涙が止まらなかった。

この人の前でだけは、自分は弱くなってしまう。

フレイアは全身でザイドに殴りかかっていった。
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