聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「この大バカ男…!!」

フレイアの腕を軽々と受け止め、いつかのようにザイドが茶化す。

「なんだなんだ、泣き虫」

「うるさい! …信じてたわ。信じてたもの」

「じゃあなんで泣く」

「わかんないわよ。勝手に出てくんのよ! ほんとの、ほんとに、私は、心臓が、止まるかと……」

「ば~か。お前を妻にするまで、死ぬものか」

「ちがうわ。二人でシワシワになるまで、死んだりしたら、許さないから」

「はは、怖いな。でもお前らしい愛の告白だ」

「こくは…!? ちが……!」

フレイアの続く言葉はザイドの胸板に吸い込まれる。

「約束しよう。俺は死なない。いつまでも、ずっと一緒だ…剣に誓って」

ザイドの指が首もとで十字を切る。

フレイアは涙をこぼし続けながら、笑う。

弱くてもいいと思った。泣き虫でもいいと思った。

この人が、いてくれるから。

そしてフレイアは自らも首もとで十字を切る。

「…私も剣に誓うわ」

その時フレイアの懐が急に光りだした。宝玉をいれていた場所だと思い至るまでに時間がかかった。フレイアがあわてて取り出すと、光放つ宝玉がふわりと宙に浮かび上がった。

淡い光はやがてまばゆいまでの強い光となって、一同の目を射抜く―――。
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