聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
―かなり危険ではあるが…やるしかない。

幸いこの棟はロの字で一周している。リュティアはロの字の廊下の角に立つと、そっとその指から聖具虹の指輪を外した…。

これは賭けだった。それもかなり危険な賭けだった。

突然聖乙女の気配が感じられれば魔月たちは驚いて、様子を見に来るはず。その隙に部屋に忍び込み、聖具を取り返すのだ。

リュティアはある程度の時間を見て外した指輪を元通りはめると、全速力で廊下を駆けた。

本当に魔月たちにみつかっては元も子もないのだ。うまく魔月をひきつけてあの角を曲がり切り、ぐるりとまわって反対側から部屋に侵入しなければ。

部屋の入口が見えてくる。予想通りだ。二匹とも気配を追ったのだろう、見張りの魔月の姿はない。

―今だ…!

リュティアは部屋に飛び込んだ。

そこはやはり闇神に祈る儀式の間のようだった。

中央に漆黒の祭壇があり、その上に紛れもなく聖具虹の錫杖と虹の額飾りが捧げられている。

リュティアが極度の緊張の中震える手を伸ばしてそれに触れようとしたときだった。

「そううまくいくかな? 聖乙女」

「!!」

不意にリュティアの背に低く冷たい声がかかった。
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