聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
その時激しく部屋の扉が開け放たれ、レトが現れたからだ。レトは何が起こっているかすばやく見抜き、剣を抜き放った。

『あの時の男か! とどめを刺してやる!』

ヴィルトゥスの動きに迷いはなかった。彼はレトの方には向かわず、リュリエルをすばやく横抱きにするとバルコニーから宙へ身を躍らせた。

落ちながら、リュリエルは不思議と怖くなかった。死ぬのかもしれない。それでもいいと思えたのだ。一緒に死ねるなら、それもいいと。

しかし地面との激突の衝撃はいつまでたっても訪れなかった。

地面の直前で、二人の体は宙に浮かび上がっていたのだ。

全身を包む聖なる力を感じた。

リュリエルはこの時、ヴィルトゥスが剣技だけでなく、強い光の力を持つ星麗であることを初めて知った。

『幾千万の森へ、逃げよう。あそこなら、追っ手を攪乱できる』

『…はい!』

どこまでも共に行こうと思った。

何が待ち受けていても共に行こうと思った。

共に、行けると、思っていたのだ。
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