聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
その時突然空間に亀裂が走り、すさまじい闇の力が襲い来ることなど、どうして想像できたろう。

闇の刃がヴィルトゥスの胸を深く突き刺すのを、リュリエルはすべてが緩慢になったように、見ていた。

ヴィルトゥスの体がゆっくりと倒れるのを、目を見開いて、ただ、見ていた。

たった今計り知れない大きな力がはたらいたことを、頭のどこかは認識していた。だが目の前の現実が…信じられずに心が空白になっていた。

『ヴィルトゥス、さ、ま…?』

『リュリエル……』

リュリエルは心が空白なのに、もう知っていたのだろう。

彼の命が今にも尽きることを知っていたのだろう。

だから無我夢中で彼を抱き起し、こう言っていた。

『大丈夫…きっとまた、会えるわ。絶対に、会えるから、だから』

なぜか視界がぼやけてヴィルトゥスがよく見えなかった。だから彼の唇が最後に何か言おうとしたことに、リュリエルは気づかなかった。

彼の体からがっくりと力が抜けるのを感じた。

『イヤァァァァァァ――――――!!』
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