聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
そのあとに起こったことは、激しく深い悲しみの中の記憶として残っている。

世界が大きな力に揺らいだ。

空間が動き、空が裂け、聖なる力が闇の力を攻撃したのだ。

世界に虹の光の粒がはじけ、闇の血が飛び散った。

それが光神の涙と、闇神の血であったことをリュリエルが知るのは、その死後だ。

リュリエルはその力で、闇神が守護者のいなくなった〈光の道〉を狙い今にも攻撃をしかけようとしていると光神の声を聴いた。〈光の道〉を守りたいとリュリエルは返した。ヴィルトゥス様の守った〈光の道〉を守りたいと。

光神はその願いを叶えた。リュリエルの体に自らを宿らせることによって。

光神が降臨したリュリエルの力で、〈光の道〉はゲートとなる陽雨神とピティランド、忘れ得ぬ闇神の血を模した赤い髪の一族の誕生と共に閉じられたことにより、間一髪で守られた。

〈光の道〉を守るためにコルディレラ山脈が生まれ、そこでリュリエルの体は力の行使に耐え切れずに死した。

こうして楽園の風は閉じられた〈光の道〉よりわずかに出でるのみとなり、フローテュリアだけに残されることとなったのだ。

それからナッシュをはじめとする残されたアンジュの一族は、アンジェラスから幾千万の森へと移り住んだ。その子孫が現在のフローテュリアの人々にあたる。リュリエルが最後にナッシュに夢を送り、幾千万の森を守ってほしいと願ったからである。

リュリエルはほかにもふたつのことを願った。

ひとつは、ヴィルトゥスと共にアンジェラスに葬ってほしいということ。これはナッシュによりすぐさま叶えられた。

もうひとつは、争わず、皆で調和して暮らすこと。この願いが叶えられることはなかった。

黒い髪に黒い瞳を持つ人間となった星麗たちは、互いに憎しみを持ったり土地を奪い合ったりするようになり、それぞれに王国をつくりあげいがみあい争いあいながら今現在までを過ごしてきたのである。

この3000年の年月を経て、今再び〈光の道〉のゲートが開いた。楽園の風は世界全土を流れ始めていることだろう。

今、リュティアをなぶるこの風は、戦乱の時代の再現。決戦を予感させる、穏やかならざるもの。だからリュティアは胸が痛い。
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